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「エール」を「パワー」に ~熱い思いはすぐそばに~

 「下北から甲子園へ!」というキャッチフレーズを掲げ、むつ市でトップの実力を誇る大湊高校硬式野球部。毎年約50チームが競う夏の県大会では、2016年にベスト4、2019年はベスト8の成績を修めている。監督は、飛内尚人(とびない なおと)先生(2017年度就任)。監督もまた、かつては大湊高校の野球部員だった。それも、1989年に春秋を通じて県初優勝を果たしたときのエースだ。

そんな野球部を支える力のひとつに、むつ養護学校高等部リサイクル班との協働活動がある。2019年度から始まり、今年度の活動名は「『エールボール』に思いを込めて! ~がんばれ、負けるな、大湊高校野球部!~」。「エールボール」とは、野球部の練習により傷んだボールを、リサイクル班が手作りで補修したボールだ。汚れた表面を磨き、ビニールテープを貼り、手書きで「がんばれ」とメッセージを添えて出来上がったボールは、再び野球部の元へ戻る。そして野球部員は、リサイクル班からのエールボールや熱い思いと共に甲子園を目指して練習に励む。

今回の取材では、この活動についてそれぞれの学校を伺った。私の担当は野球部だ。

取材へ向かう前、雲行きが怪しく、野球部の練習が心配になっていた頃、リサイクル班を取材した職員からその様子を聞くことができた。生徒たちが野球部を熱い思いで応援していること、心を込めて作業に取り組んでいること、自分たちの活動や野球部の活躍から得られる達成感は将来への糧となっていることがわかった。

 厚生会事務局から車で2時間半、大湊高校に到着し野球場へ向かうと、飛内監督が迎えてくださった。部員たちは、既にキャッチボールを始めていたが、こちらに向かって脱帽し、「お疲れ様です!」「よろしくお願いします!」と、気持ちの良い挨拶をしてくれた。やはり、強いチームは挨拶が素晴らしい!

 ベンチ横にはボールがたくさんあり、早速、赤、青、黄色のエールボールを見つけた。

 

 硬式ボールは使い込むと、糸がほつれたり、革が破れたりして使えなくなる。しかし、リサイクル班の手により、見事にまた使うことができるボールとして復活していた。

予想以上に綺麗に丸く補修されていて、驚いた。

 私が感動していると、監督がグラウンド脇の建物に案内してくださった。縁起物が並ぶなかに、リサイクル班からのもうひとつの贈り物『エール千羽鶴』が飾られていた。

 色鮮やかな「絆」の文字通り、エールボールをきっかけに、両校の間で色々なつながりが生まれたという。以前は野球部の保護者が千羽鶴を作っていたそうだが、今ではリサイクル班がその役割を担っている。監督は、「これまで、自分たちのため、応援してくれる人たちのために闘っていた世界に、むつ養護学校という新しい力が加わった」と語った。部員たちの下北魂は、リサイクル班の力で、ますます激しく燃えるようになったのだろう。

 いよいよ、エールボールを使った練習が始まるということで、再びグラウンドへ。

一度集合し、本格的な練習が始まった。

部員たちは重たそうなカゴを持ち上げ、走って練習に取り掛った。大湊高校では文化祭が近づいていたこともあり、この日練習に参加していた部員は少なかったが、

「いこうぜいこうぜ!」

「がんばろうがんばろう!」

などと、お互いに励まし、活気づけあう声が飛び交っていた。

 部員たちが練習に励むなか、監督がエールボールの特徴を教えてくださった。

屋内でボール練習ができる

 硬式ボールは表面に堅く太い糸があり、室内で使うと壁や床を傷つけてしまう。そのため、以前は室内練習でボールを使えなかった。しかし、表面がビニールテープで覆われたエールボールのおかげで、室内でもボールを使って練習できるようになった。

目立つ色

大湊高校野球部では、白いボールは直球、色のついたエールボールは変化球と、区別しながら練習することができる。右の写真に写る部員たちは、ボールの色によって打ち方を変えており、時折、監督は「今のがカーブの打ち方か?」などと声をかけていた。

また、暗い夜でもよく見えることも大きなメリット。この日も、取材を終える頃には真っ暗だったが、エールボールは白いボールよりもよく見えていた。

凹凸の表面

 エールボールを覆うビニールテープは、きつく引っ張られ、均等な幅にずれていくよう綺麗に巻き付けられている。テープが重なっていくことで表面には凸凹ができる。そのおかげで、室内の滑らかな床でも土のあるグラウンド上のように曲がって跳ね返るなど、不安定な動きをする。部員たちにとって、これはボールを最後までよく見る力を鍛える良い要素となる。

堅さ・重さ・飛び難さ

 独特な質感をもつエールボールを遠くまで飛ばすためには、硬式ボールよりも力を込めて扱う必要がある。

雨に強い

 硬式ボールは表面が革で、実は雨に弱い。その点、エールボールは雨に濡れても長持ちし、経済的にも野球部を支える。

ビニールテープは剥がれやすいのではないかと思っていたが、意外だった。

 取材に出発する前、雨が降ったらどうなるのだろう…と心配していたが、雨天時の室内練習でこそエールボールが大活躍するというわけだった。

また、硬式ボールは1個800円~1,000円と決して安価ではない。部員たちもそれを理解し、もともとボールを大切にしていた。しかし、リサイクル班との活動をとおし、一層大切にするようになり、ボールが転がっていても素通りしていた部員が、今では拾うようになったという。

2年生のキャプテン、木村寛治さん(右写真、手前)は、「ボールのメッセージを見ると頑張ろうと思う。かなり励みになっている」と、開口一番にメッセージに触れた。

実は、メッセージが添えられるようになったのは2020年度から。新型コロナウイルスの流行を受け、リサイクル班の「励ましたい」「応援したい」という思いが強まったことから始まった。

木村キャプテンには確実にその温かい思いが届いていた。

彼は、この日野球場にいた部員の中で、最もリサイクル班との交流を経験している。

 本来は、部員全員で定期的にリサイクル班と交流する。

2019年度には交流会を3回実施し、車椅子を使っている生徒もみんなで安全に楽しめるよう、プラスチックのボールなどを作ってゲームをしたりと、親睦を深めていた。

ところが、2020年度は、新型コロナウイルスへの対策のため交流会は実施できず。唯一実現したのが、『エールボール』と『エール千羽鶴』の贈呈式。6月15日、大湊高校にてリサイクル班から野球部へ贈られた。参加した部員は4名で、木村キャプテンはそのうちの1人だった。

木村キャプテンは「むつ養護学校の方の思いにこたえたいと思います」と、真っ直ぐに前を見据え、力強い声で話してくれた。

部員たちは、コロナ禍で、今までになく悔しく、やるせない経験をしたはずだ。そんな話をしていると、監督は「だからこそ今の頑張りがある」と話し始めた。部員たちは、気持ちを立て直し、コロナ禍の夏など忘れたように練習に打ち込むようになったという。その過程でもまた、リサイクル班の熱い応援が彼らを支えた。

監督は最後に、「経済、精神、練習面で本当に助かっている。エールボールが勝利のカギと言っても過言ではない。嘘の無い活躍を見せていきたい」と語ってくれた。

 この活動は始まって2年目。エールボールをとおして、お互いを思い、人と人とのつながりを大切にする心や、自分自身を高める力が育まれている。また、野球部員にとっては、エールボールは試合で勝つための練習に必要な、大事な大事な武器となっている。

 大湊高校硬式野球部は今日も、リサイクル班の熱い思いが込もったエールボールと共に、甲子園目指して、元気に、力強く、練習に取り組んでいる。

がんばれ!大湊高校硬式野球部!

大湊高校の皆様、取材にご協力いただきありがとうございました。