本採用の方 臨時的任用職員・
会計年度任用職員・
任期付職員の方
閉じる

メニュー

事業一覧

お問い合わせ 様式ダウンロード
お問い合わせ 様式ダウンロード

「龍飛の果てまで行って~ワッショーイ!」

 外ヶ浜町の三厩地区。

 津軽海峡に面して、道路沿いに細長く伸びる町の中にあるのが三厩中学校だ。

 この中学校には、ねぶたとともに練り歩き、行く先々で伝統芸能である「荒馬踊」「太刀振」という二つの踊りを披露する「三厩中学校ねぶた祭」というお祭りがある。

ねぶた祭のコースの途中、義経寺から三厩駅方向を見る。

海と山の間、道路沿いに細長く伸びるのが三厩地区。

 三厩地区の町内を通り抜けながら、途中、踊りを披露して歩くこの祭。三厩駅を出発して北上し、最終目的地は竜飛岬のすぐそばの太宰碑公園。総行程なんと15キロにもなる長丁場だ。

 現在の三厩中学校は、旧三厩中学校と旧宇鉄中学校が統合されて出来た中学校で、今年で統合20周年を迎えた。

 この三厩ねぶた祭は旧三厩中学校で行われていたもので、さらに二つの踊りを披露する現在の形になったのは統合された時かららしい、歴史ある祭りだ。

 前日までのぐずついた天気の名残で、あいにくの薄曇り。少し前の猛暑が嘘のように気温も上がらないが、むしろロングウォークには負担が少ない天候だ。

 三厩駅に集合し、8時20分から出陣式。

「移動中は広がらない」「靴のひもはしっかり結ぶ」「具合が悪くなった場合は随行の先生に申し出る」などの諸注意や、生徒会のねぶた実行委員長の挨拶などの後、先生の確認が入る。

「この間の注意で、一番大事なことを言いましたね」

 思わずえっ、と戸惑う29名の生徒達。改めて聞かれて答えに詰まっていると、先生が言う。

「一番大切なのは笑顔です。みんなが笑顔で踊れば、見てくださる人達も元気になります!」

出陣式。1年生から3年生まで全校生徒29名がそろい踏み。

 三厩駅で初披露の後、扇ねぶたを載せた小型トラック、囃子の太鼓を載せた小型トラック、ねぶたの衣装に身を包んだ生徒たちと列を作って歩き出す。

先導の広報車が、地域の方々に三厩中ねぶた祭りが運行していることを呼びかけている。

 ちなみにこの扇ねぶたも生徒たちが作ったものである。

 土台のぼたんの絵は一年生、見送り絵は二年生、鏡絵は三年生が、地元でねぶたを作っている方の指導で描いた手作り作品だ。

 衣装は青森ねぶたと同じだが、掛け声を上げながら跳ねたりはしない。

「さっさよいやな、さっさよいやな、よーいよーいよいよいやな、さっさどっこいしょ、ほーいほーい、」

 と、独特な掛け声を上げながら5分ほど歩き、三厩駅から国道へ出る通りの商店の前で最初の演舞が始まる。

 周辺のお年寄りや保護者が、持ち出した椅子に腰かけて待ち構えている。

「日頃の練習の成果をお見せできるようにがんばります!」

と前口上を述べ、続いて祭りのキャッチフレーズ。

「語り継ごう、義経伝説! 受け継ごう三厩ねぶた!」

 三厩は源義経が平泉から落ち延びて放浪したと伝えられる地域だ。近くには義経寺というお寺もある。その伝説への誇りがこのねぶた祭のキャッチフレーズになっている。

三厩駅から500メートルほど進み、最初の演舞。ここは駅からまっすぐ降りてくる道路。

右側に踊りを楽しみにしている住民がさっそくお待ちかね!

 商店の前の道路を封鎖して荒馬、そして太刀振を披露。

 荒馬は県内各地に伝わる有名な踊り。隣の今別町には「荒馬の里資料館」もある。

 もう一方の太刀振はこの三厩地域の郷土芸能で、三厩中学校自体が町指定の保存会になっているという、さらに貴重な伝統芸能。1メートルを超える長い棒を武器に見立て、二列に並んだ生徒達が、棒を打ち合わせたり振りかざし、剣劇さながらに入り交り舞う姿は勇壮そのもの。

 生徒たちの見事な演舞に、沿道から拍手が上がる。

 この後も、住宅街を移動しながら、空き地や道路上で生徒達が踊りを披露していく。場所と時間は事前に各戸へチラシやポスターを配布しているので、どこも地域の方々が集まって待ちかねている。

 そしてひときわ大きな舞台が、地域にある介護施設「寿楽園」。

 ここでは入所者のお年寄りたちが施設の前にずらりと並んで生徒たちの到着を待ちわびていた。他の見物の人達も今までよりずっと多い。

 施設の職員の方も法被を着て踊りに加わり、生徒たちの演舞にも力がこもる。

 終了と同時に拍手がわきおこり、アンコールの声もかかる。中には、「息子と一緒に踊れよ!」と勧められているお父さんもいた。

 熱のこもった演舞の後は、出発から1時間以上歩いた生徒たちに、冷たいお茶とスイカが振る舞われる。

 左が太刀振。施設のみなさんも一緒に。右の荒馬も躍動感いっぱい。

三厩中⑧

最初の休憩で冷たいお茶とスイカ。心遣いが嬉しい時間。

寿楽園に隣接した特別養護老人ホーム「あじさい」。休憩を取ってさらに元気。

施設の人も加わって、太刀振の列が二倍の長さに。

 15キロメートルというと歩くだけでも大変な距離だが、生徒たちは元気そのもの。その笑顔のためか、行く先々の人達も楽しそうだ。

 集まる方々ももちろんだが、通りすがりの家でも練り歩く生徒たちを笑顔で見送り、先生たちに挨拶している。

私としては、白髪のおばあさんが道端で椅子に座って生徒たちの列を見送った後、満足げに

「いやあ、いいもの見だじゃ」

 と言っていたのが印象的だった。

 移動して                   踊る!

踊って                    挨拶してまた移動

 残念ながら私は、午前の部の中間あたり、3キロメートルほど歩いた義経海浜公園までで退席させてもらったが、生徒たちはその後も延々と夕方まで歩き続けるのだ。

 この記事のタイトル「龍飛の果てまで行って~ワッショーイ!」は踊りの前口上の最後に唱和していたキャッチフレーズだ。

 各地域への挨拶はその地域出身の生徒が行い、前口上の最後に自分達で考えた「龍飛の果てまで~」や「15キロ歩いても私たちは元気もりもり!」など、いろいろ愉快なフレーズを唱和する。

大はねぶたから、小はキャッチフレーズまで生徒たちが考え、地域の方々と一緒になり、祭りを創り上げているのだ。

義経海浜公園。よく整備された公園だけに、たくさんの人が集まっている。

 祭り、義経伝説、学校の歴史、荒馬、太刀振、そして町の人たちの期待。三厩地区に受け継がれる伝統、伝説を担った祭りなのだ。

 15キロのロングウォークと聞いた時に「これは歩くだけで大変だなあ」と感じたが、この祭り自体が、生徒たちが歩くために費やしたエネルギーの何倍もの元気を、地域の方々にもたらしていると感じられる。

 三厩の人々が支え、大きな笑顔を生み出す祭として、これからも受け継がれることを信じたい。